せでぃのブログ

ブログ初心者おいどんのどうでもいい愚痴やどうでもいい愚痴やどうでもいいマメ知識などを披露するチラシの裏です。

OUR_AQUARIUM

どうせだから昔に書き起こした夢体験を全部乗せちゃう。


午前中の明るい日の光が街中に健やかな陰影を作り出している。行き交う人々の顔がやけに明るく見えるのは日の光のせいだけとは言い切れない。
僕は30分程の短い会食を終えたところだった。昔の彼女は少し大人びた顔つきになっていたが、愛らしさはそのままで、たわいもない会話に花を咲かせ非常に有意義な再会だった。たまに周りの空気を読まない彼女の訛った毒舌も昔のままだった。


「ゴゴゴゴ」


地面が揺れるのを感じたのは、そんな至福の後味を噛み締めている時だった。窓が一斉に揺れる不快な不協和音が遠くの方から聞こえてきた。
これはかなり大きい地震だな、と思った瞬間、頭に彼女の笑顔が浮かんだ。彼女はもう少し用があると言って、先ほど会食をした地下街に残ったままだった。すぐさま、電話ボックスのそばにある地下街の入り口へと踵を返した。
地下街の階段は地上へ出る人でごった返していた。一人だけ逆方向に歩く僕とぶつかる度に、皆一様に殺気の固まりのような視線を向けてきた。


地下街は釣鐘を逆さにしたような形をしている。逆さになった釣鐘を水平に薄くスライスするような形で各フロアがあり、各フロアは真ん中にある4基のエレベーターと、周囲にある4つの階段で接続されている。階段を釣鐘の上か下から見ると、ちょうどバッテン状に見えるはずだ。
地震管制装置でエレベーターが止まっていると思い、ひたすら階段だけを使って彼女を探した。周りは僕同様に人や出口を探す声と、どこからか上がり始めた炎の音で溢れていた。


もう足が上がらないというほどへとへとになった頃、最下層のフロアに着いた。最下層はテナントが入るほどの広さが無いため、休憩所のようなスペースになっている。
残念ながら、そのフロアは無人だった。頭ではわかっていた、この状況で彼女と再会する天文学的な確立を。そしてその確立にかけるバカらしさについて嫌というほど理解していた。それでもガムシャラに、本能的と言っていいほど考え無しに彼女を探していた。
ここに来る間に、地下街のあちこちで火の手が上がっているのが見えた。このフロアに入るのだって、命からがらだったからもう無事には戻れないだろう。



と、部屋の隅っこにある扉が青白く光っているのが見えた。その綺麗なエメラルドブルーに惹かれるように近づいてみると、エメラルドブルーは浮かび上がった文字の色だということに気付いた。


『不回火装置に空きがございます』


ふかいひと読むのか、ふかいかなのか、読み方が気になったところで、ふと、ある日見たニュースを思い出した。確かこの最新型の釣鐘型地下街には消防法的に欠陥があって、その回避策として逃げ遅れた人間を収容するスペースを最下層に作ったとか何とか。そんなニュースが流れていたのを思い出した。
空きを示す文字と一緒にドアを開けるボタンにも同色で『OPEN』の文字が浮かび上がっていた。それを押すとドアが自動的にスライドした。


ドアが開くと同時にその部屋の明かりが点灯した。
白を基調にした簡素な応接室のような部屋の中には、白いソファと透明なガラスの机があり、部屋の脇にある棚には花が飾ってあった。そしてこの部屋をアクアリウムのように印象付ける最も目を引くものが一番奥にあった。無彩色の部屋を彩る水色の水の壁だ。
ニュースで取り上げられたCG画像によると、この不回火装置は水平に十字になった形なのだそうで、その十字型のそれぞれ4つの端に部屋を設け、クロスする部分には各部屋を遮るような形で冷水を縦に循環させる作りなのだそうだ。
そしてこの装置の最大の売りは、その冷水と部屋とを仕切るものは何も無いというところにあった。手を伸ばせば水に触れるのだ。一方で、部屋を垂直に仕切っている水の壁は崩れることも無く、部屋が水浸しになって清掃業者が愚痴を漏らすことも無いという。

一通り部屋を物色したところで、水の壁を挟んで反対側の部屋に人がいることに気づいた。
彼女だ。彼女が居た。彼女はこちらを見ていることから僕には気付いているようなのだが、驚く様子も喜ぶ様子も無い。冷たいというか何も考えていないという目線をこちらに投げかけていた。


部屋がやけに暑い。どうやらただの地震ではなく、火山性の地震だったようだ。普通の火事であれば問題なく機能するはずの冷水からわずかに陽炎が立ちのぼっていた。
とにかく彼女と話がしたい。部屋を探してみるが、電話やスピーカーのような通信装置はどこにもなく、大声で叫んでも水の壁に遮られた。


よし。
恐る恐る陽炎ののぼる水の壁に指先を突っ込んでみた。温い。冷水では無いものの、まだまだ通行を妨げるような温度では無い。
意を決して水の壁に身を投げたその時、熱い上昇流が起きた。伸ばした手は向こうの部屋には届かず、無情にも僕の身体は上へ上へと流され始めた。


Not to be continued....単なる僕の夢だからねw