せでぃのブログ

ブログ初心者おいどんのどうでもいい愚痴やどうでもいい愚痴やどうでもいいマメ知識などを披露するチラシの裏です。

キノの旅 -出張お疲れ様です-

キノの旅が好きな方及び作者に近しい方、何より作者本人は、この先見ない方がいいと思います。
本に対してこんな酷い感想をこれほどの分量で書く日が来るとは自分でも夢にも思いませんでした。
読書感想文の癖に物凄い長文です。原稿用紙5枚分くらいから大分削ってこれですから、僕のこの作品に対する思いの丈を読み取って欲しいと思います。
せでぃです、ども。


キノの旅―The beautiful world (電撃文庫 (0461))

キノの旅―The beautiful world (電撃文庫 (0461))

読んでて続きが全く気にならない、寧ろ、持ち帰った仕事が物凄く捗る希有な小説でした。
日本の料理人は何故外国に修行に行って腕が上がるのか。それは本当のマズさを自分の舌で覚えるためだという人がいます。
そういう意味で、このシリーズは山田悠介作品と並んで日本人には価値のあるものだと結論づけます。
いい? 僕なりに精一杯持ち上げてますよ? 今までこんな毒舌で感想文書いた本は一冊もないのよ?

まずはあらすじ

銃の得意な少女が喋るバイクと一緒に諸国を旅する。


僕の期待が大きすぎたのかもしれない。このキノの旅という童話風小説に世界観と呼べるほど魅力的なものは無かった。
かといってあまりにもキノの感情が希薄過ぎて感情移入もできない。何故これほど絶賛されてアニメ化までされているのか、いまいちよくわからない。
子供受けするような子供視点の話だからか? 女の子の感性は男のオレと全く違うのか?
童話とか寓話というだけあって、テンポとか盛り上がりとか皆無です。ひたすら淡々と、淡々と語られます。


キノの旅の中で世界観と呼べる程度に「共通して特徴のある」ものは、

  • 1.動物やバイクが喋っても誰も驚かないこと
  • 2.キノ、エルメス、パースエイダー(銃)、モトラド(自動車)という言葉
  • 3.旅人以外ほかの国家と全く交流しない=旅人の主人公を含めて全ての人々が独善的で自己中心的で冷淡なこと
  • 4.国家以外の場所は無法地帯(ほとんど描写なし)

くらいか。国家によってはオーパーツなどありますが、こんな浅い設定を世界観と呼んでいいの?

伏線って何それ、美味しいの?

基本的にキノが訪れる国は全て、「有史以来、絶賛鎖国中」です。行間を読むに、たぶんね。
1話完結の短編集ということを差し引いても、あまりに各国家間や国家以外の人との交流が無さ過ぎる。技術格差が大き過ぎる。キノが訪れるまで滅亡した国家だという情報が入ってこない。などなど。何というか、キノが目にする以外の世界の周辺情報に乏しいのですよ。
あ、そうそう、「伏線とか1つとしてありません」ので。1話完結ですから、えへへ。
キノが訪れる国の名前は無く、国の歴史も無いに等しい。国同士、物々交換どころか情報交換すらせず、過去に交流した歴史すらないようです。

キノ:「世界は美しくなんかないから、別にどうだっていいでしょう?」

この作品は他人に対して余りに関心がなく、閉鎖的過ぎる大人たちの社会の見聞録ですが、主人公である旅人のキノからして、探究心や好奇心、童心とは無縁のただの放浪暗殺者です。ええ、2巻の時点でもう何人か殺ってます。
まぁ仕方ない。キノは目的のない移動と暗殺術(自己防衛手段)の練習がライフワークであって、見るべき価値のない各地を物見するのは二の次みたいだしね。
歴史や文化、芸術、自然や景色にはこれっぽっちも興味などなく、滞在の暇潰しに眺めたり嫌々聞いたりする程度。銃とバイクにのみ関心を示します。
上記でないということは、恐らく人を見に行ってるであろう割に人に執着する様子も慟哭したり軽蔑したり悔恨の念に駆られたりする重たい感情もほとんど描かれません。
ほかの国の話題がキノの口に上ることは絶対になく、人の話を聞いて適当に相槌打って飯食って寝て銃の手入れしたら出国するだけ。
人が恋しくもならず情景の1つも切り取らないキノ。昔の自分が無性に恥ずかしくなったり、ふとしたことで懐古したり、遠い未来や広い世界に呆然としたりとか今までのところ一切無し。それで旅してますとか偉そうに抜かしてるんじゃねーよ、バカ。
無感動な家出少女が惰性でバイク流して諸国を放浪するという本当に、本当にそれだけのお話です。
これ、一人旅じゃなくて、家出はたまた出張なんですか? BeautifulWorldって副題は、醜悪な現実に対するただの皮肉なんですか?


現実世界を切り取って見せるかのような非情なまでに他人に無関心で独善的で冷淡な描写をする一方、世界の広さや人格の大切さを微塵も感じさせない寧ろ世界の狭さを印象づけて人間を貶める構成に、萎えるどころか憤りすら覚えました。アンチテーゼなら主人公にもっと感情を吐露させやがれ。
一応、適当なとこまでは読んでみるけど、続き(続きものじゃないらしいんだけどね)とか本当にどうでも良いと思えるほど、全然引き込まれないんだよ、これ。
どうせまたご自慢の銃いじってエルメスと下らない会話して閑話休題だろ?


住みたくも妄想したくもならない日本の社会問題の一面を切り出した退屈な空想上の国々がキノの旅先にゴロゴロと無造作に転がっています。
そう、そこここに「国」と書かれた同じ大きさの玉が散らかっていて、特に感想も感慨も興味すらなくそれらを次々と拾っては一瞥して元に戻すキノ。
その様子を読者は淡々と眺めさせられます。ルーチンワークという名の退屈で嫌な日常を見せられているようで、ハッキリ言って苦痛でしたよ。


あのな、キノの世界くらい嫌な部分や重要で難しい問題だって現実にはあるけれども。
実際の旅はもっともっと広い世界を感じて孤独と繋がりを感じて、もっともっと驚きや温もりや興奮があって、何より!!
人をひきつける感動や魅力に溢れた歴史と風景がそこにあるんだよ!!!! 倫理の授業に定価で金払ったんじゃねーぞ、ちくしょー。




2009.9.29
訂正 絶好鎖国中、を絶賛鎖国中へ訂正しました。
修正 繋がりを感じて、を孤独と繋がりを感じてに修正しました。