せでぃのブログ

ブログ初心者おいどんのどうでもいい愚痴やどうでもいい愚痴やどうでもいいマメ知識などを披露するチラシの裏です。

2100年の科学ライフ

2100年の科学ライフ

2100年の科学ライフ

 いつも通り長文なのでスルー推奨。
 IT業界に身を置いてみて、10年先を見通すことの難しさを知った。それは10年前に現在の状況を見通せていたか考えるとわかりやすい。敏い人でせいぜい5年先が限界だろう。MMOやフラッシュの衰退もブラウザゲームやストリーミング動画、スマートホンの興隆を見通せていなかった。それよりさらに難しい100年先を見通すというのだから読まない訳にいかないじゃないか。しかも、ボリュームがすごい。これを執筆するのも翻訳するのも生半可じゃなさそうなので、敬意を表して思いつく限りコメントしたい。

あらまし

 理論物理学教授で多くの科学番組に出て、多くの本を出版しているミチオ・カクが300人の科学者への取材を根拠に、2100年という近くて遠い未来を予想する。著者の比較的大きい思惑が入るのは「二一00年のある日」という項目だけで、それ以外はかなり慎重に各研究者の研究を紹介し、技術史を紹介し、未来の考察についても必ず研究者へのインタビューを交えており、地に足が着いた話としてまとまっている。

 テーマは大きく以下の項目に分けられており、さらに近未来(〜2030)、世紀の半ば(2030〜2070)、遠い未来(2070〜2100)の小項目に分けて論じている。

目次
コンピュータの未来
人工知能の未来
医療の未来
ナノテクノロジー
エネルギーの未来
宇宙旅行の未来
富の未来
人類の未来
二一00年のある日

メモと感想

 まずは、予想以上に進みそうなのが脳科学で、人工知能、エネルギー問題、宇宙開発はほとんど進まなさそうだというのが意外だった。あとは個別に取り上げていく。映画「サロゲート」、見なきゃなぁ。

頻出するキーワード

 キーワードは次の3つ。穴居人の原理、ナノマシンの発達、ムーアの法則の終焉。

 穴居人の原理とは、今まで多くの未来予測が外れた原因と筆者が考えている法則。テクノロジーと原始的な祖先の欲求の間で軋轢が生じた場合、原始の欲求を優先するというもの。それは証拠の要求によりペーパーレスが進んでいないこと、直接人間と会いたがるために、インターネットはTVもラジオも完全には消し去らなかったことが例としてあげられていた。

 ナノマシンの発達については、コンピュータ分野、医療分野、宇宙開発あらゆる分野で活躍が期待されており、全編を通して分野をまたいで再三でてくるキーワードだ。

 ムーアの法則の終焉。ムーアの法則とは、コンピュータの性能が時間の経過と共に加速的に向上していくというものである。その終焉とは、チップがみずからの発する熱を排出できなくなり、トランジスタの大きさが量子論が支配する原子サイズになると回路をショートさせ、チップを安価に量産する装置の作成が難しくなり、性能向上に限界が来るということ。
 この予想は、「少なくとも今後一五〜二0年間は、ムーアの法則を当てにできると考えている。」と二00四年に発言したインテル社のパオロ・ガルジーニによって裏付けられている。

ムーアの法則が終わると困る理由

 チップは多種多様な製品に組み込まれており、製品の買い替えが経済活動の一部を押し上げる原動力になっている。経済が大混乱するらしい。もっと別なアプローチが必要になりそうだ。

 量子コンピュータは、コヒーレント(不干性)を確保することと、1+1=2を"唯一の答え"として導き出せない不確定性の課題がある。
 光コンピュータは電子ではなく光線を使って計算する。光線同士は通り抜けるので配線が不要になる。理論上は一つのチップに数百万本のレーザーを詰め込めるらしい。
 DNAコンピュータはDNAの鎖を使うもので、ATCGの4文字で表され、鎖を切ったり繋いだりして計算する。処理自体は緩慢だが何兆個ものDNA分子が同時に働くのである種の計算についてはうまく解けそうだ。

心を読めるようになる

 fMRIや脳波計で障害者の思考を読み取る医療機械、例えばチュービンゲン大学のニールス・ビルバウマーは身体が部分的に麻痺した患者が思考するだけでPCを操作させることができる装置を作った。それを根拠に、考えるだけで操作できる機械、夢の映像化すら実現可能だろうとしている。

 確かに介護医療から出た未来技術はサイコキネシスの域にまで到達できそうに思える。脳の解析・リバースエンジニアリングにどれくらい時間がかかるか次第かね。

人工知能特異点

 カクは、100%自律し意識を持って殺人を行うロボットは2100年よりもさらに遠い未来にならないと実現しないと考えている。

 人工知能トップダウン型とボトムアップ型に分けられる。トップダウン型はプログラミングであらかじめ動作を決められたもので、スタンフォード大学のSTAIRはものを識別して掴むことができる。チェスコンピュータのIBMディープ・ブルーASIMOなどもトップダウン型だ。ボトムアップ型は学習するタイプでニューヨーク大学のゴルフカートのような形のLAGRは障害物を学習して避ける。それでも、現在の軍事ロボットは蚊やゴキブリの知能にすら及ばない。力まかせに計算するだけのチェスコンピュータのIQはいくつだろうか?
 ほぼ光速で計算できるデジタルコンピュータに比べて人間の脳であるニューラル・ネットワークは恐ろしく処理が遅い。神経インパルスは時速300km程度というひどく遅い速度なのだ。それでも人間の脳がコンピュータに並ぶほどの能力を示すのは並列処理をしているからで、具体的には一000億個のニューロンが同時に働いているからだ。プロセッサ自体も並列処理の方が早い。
 脳の解析・リバースエンジニアリングが今世紀最後まで終わらないだろうし、ロボットが突然意識をもつような奇跡は起きないだろう。人間の知能を超える人工知能が出る特異点を問題とするより以前に、多くの課題が山積みになっているのだ。ロボットが意識をもつにはかなりの時間がかかり段階を踏んでいくので、映画のような不意打ちは受けないし、できるだけフレンドリーなロボットを作るような方向で研究は進むだろうと考えている。

 ロドニー・ブルックスが開発中の人工蝸牛や人工網膜。「感じる」義手・義肢などもあちこちで開発されている。映画、サロゲートアバターのような人間とロボットとの融合が進みそうな気配だ。

本文中における医療診断と人工知能の矛盾

 人工知能についてはトップダウンにしろボトムアップにしろ、実現は遠いと言っている割に、筆者は医療の診断ロボットができると考えている。健康診断や精密検査が家庭で日常的にできるようになるというはわかるが、診断する人工知能は難しいのではないだろうか? 医者はどこの国でもヒエラルキーのトップに位置する難しい仕事だろう。

ヒトゲノムプロジェクトの成果

 遺伝子に依存する病気というのがある。ガンもそのひとつだ。タバコの煙はp53遺伝子の三つの部位に特徴的な変異を起こすことが多い。損傷したp53遺伝子を取り替えられれば治療もできそうだ。
 また、遺伝的要因に加えて環境的要因も原因に含まれる病気の解明も進むだろう。糖尿病、統合失調症アルツハイマーパーキンソン病などである。

幹細胞

 幹細胞は言うまでもなくiPSのアレ、未分化の杯性幹細胞を変化させれば人体のほぼどんな細胞も作り出せる。実験室で大量に培養して臓器や身体のパーツを作れるが、増殖を止めるタイミングがコントロールできず難しいのだそうだ。
 他方、アメリカ軍の再生医療研究所では器官培養のまったく新しい手法を用いている。細胞外基質だ。細胞外基質には幹細胞を決まった形に成長させるシグナルが含まれていて、前述の問題が解決できる、と。

地球温暖化

 これについてだけ、おいどんは異議を唱えたい。ぶっちゃけ温暖化でも寒冷化でも、どっちでもいいんだけど、どちらがよりリスクがあるかと考えると、寒冷化の方がリスクが高いと思うんだよ。温暖化で都市が水没しようが、流行病がはやろうが、有史の経験で対処できると思うんだよ。人類は沢山の都市や図書館や芸術を破壊し、再興してきたのだから。ところが、本格的な氷河期については1万年くらいさかのぼらないと経験がない。"核の冬"のようなものが来たとしたら、太陽光発電だけじゃなく食料生産がどうにもならないだろう。
 ちなみに、現在は氷河期中の間氷期と考えられているので、更に寒くなることも暑くなることもどちらも考えられます。

分子3Dプリンタ

 ナノテクノロジーの項目で、ナノボットが材料を分子レベルに分解してなんでも作れるようになるレプリケーター(分子アセンブラ)という装置が考えられている。
 MRIスキャンの精度は0.1ミリメートルだが、像の精度は装置内の磁場の均一さと関係している。もちろんなんでも作れるようになるのだから、細胞サイズ以下の分解能で、生きた臓器すら作成可能になるだろう。
 この万能レプリケータの懸念事項として、なんでも作れる装置が誰でも手に入れることができるようになると、富の格差がなくなり共産主義のような怠惰が流行することがあげられている。おいどんはどちらかというと、資源と材料の心配をする。食物の心配がなくなるということは、うんこや小便を再利用するのだろうか?

宇宙開発

 今世紀末に至っても、地球を脱出する人間は火星に植民するごく一部のみと考えられている。反物質ロケット、原子力ロケットは難しいので、核融合ラムジェットと太陽帆が現実的な新型ロケットエンジンの候補となり得る。太陽帆の試験であるJAXAのイカロスについて、触れられていた。
 通常のラムジェットエンジンが前部で空気を集めて、燃料と混合して燃焼するところを、核融合ラムジェットは水素ガスを集めて核融合を起こして推進力に変えるという仕組みらしい。

量子論のすり抜けが実生活で起きない仕組み

 これ、何回聞いても忘れちゃうので、メモ。
 椅子に座ると、自分の身体が椅子に触れているように思える。ところが、椅子の電気力と量子論的な力によって斥けられ、一ナノメートルも離れていないが椅子からは浮いている。わたしたちが何かに「触れる」ときには直接当たっておらず、こうした微弱な原子間力によって離れていることになる。
 この排他律を無効にできれば、量子のように壁をすり抜けられる可能性がある。ただ、その方法は誰にもわかっていない。

富の未来

 非常に楽観的だ。ゴミ収集員や建設作業員、庭師といったブルーカラーでもパターン認識を必要とする仕事はなくならず、バブル崩壊後には、よく科学的な進歩があったのであまり心配する必要はないとのこと。

文明レベル1への推移期は文明の危機

 カルダシェフによる文明レベルの定義は3段階ある。タイプ1は惑星規模の文明で惑星に降り注ぐ主星の光を消費する。タイプ2は恒星規模で主星が放つ全エネルギーを消費する。タイプ3は銀河規模の文明で数十億個の恒星のエネルギーを消費する。
 タイプ2はもはや不滅の文明と言っていいレベルなので、現在のタイプ0からタイプ1への移行期が一番危ないらしい。現在の地球は言語やネットワーク、流通、流行などで惜しくもまだ惑星規模とは言えず、タイプ0らしい。熱力学第二法則によるとエントロピー(無秩序さ・乱雑さ)の総和は常に増大するというものがあり、エントロピーを保存する文明でなければ破滅が待っている。
 現在の化石燃料のほとんどは摩擦熱に打ち勝つために使われている。リニアモーターが自家用車レベルで普及すれば、エネルギー問題も地球温暖化問題もエントロピー増加の問題も一挙に解決する省エネにつながるので、これがエントロピーを保存する文明への第一歩となりそうだ。

関連ニュース

 この本に関連するタイムリーな記事がいくつかある。
 まずは、量子コンピュータ。日立のニュースが最近あった。これは従来のマシンで量子コンピュータの計算手法を模したものと捉えればいいと思うが、難しいことはわからんw

ニュースリリース:2015年2月23日:日立

 ムーアの法則に関するニュース。本書では分子トランジスタの素材にグラフェンが有望とされていたが、ここではポリオキソ金属酸塩(POM)を使うというニュース。

「ムーアの法則」が破られるかもしれない:トランジスタと同じ働きをする単分子 « WIRED.jp

 ロボットの反乱を懸念する声は定期的に聴こえてくる。技術的特異点のほか2045年問題とも呼ばれている。

【人類滅亡?】2045年問題について語らせてwwwwwww:キニ速

 ゴキブリに発想を得たロボットも開発されている。

[サイボーグ化ゴキブリ Biobot で災害救助、米大学が開発。声を頼りに生存者を捜索 - Engadget Japanese

 正にこの本に記載のあった計画。経産省JAXA主導で二0一五年に打ち上げるとあった宇宙太陽光発電SSP)の話だ。話自体は20年以上前までさかのぼるくらい古いんだけどね。費用の問題、それから3万5千kmの高度で送電ロスが大きくなるという2つの問題があったはずだけど、解決したのだろうか。

宇宙で発電し地上に送電、実証試験へ JAXAなど:朝日新聞デジタル