Q.E.D.先天性無職

　車で髪を切りに行った。田舎だと少しの距離でも車に乗るのだ。
　髪を切りながら店主と他愛もない話をしているといつもの流れで仕事の話になり、「私、無職なんです」という話をした。しばらくすると、店主が窓の外を見て絶句していた。

「あ、あ、あの、あれ……、もしかしてお客さんの車ですか？」
「え？　あ、はい。しばらく洗車してないんで、汚いですがw」
「そのぅ、失礼ですが親御さんのお金で？」
「？？？　いえ？」

　店主が何に驚いているのか、まったくもってわからないが、その後ひとことも発せずハサミを持つ手が震え出したので、話を続ける努力をしてみた。
「仕事してた頃に、ローンで自腹切りまして」

　すると、なぜか納得したようで、
「あーーーーーー、仕事してたんですか。ですよね、そりゃそうですよねー。なるほど」
そんなに生まれてこのかた仕事してなさそうな顔かいwwww　会話は更に続き、

「お仕事探しは順調ですか？」
会話はさらに突っ込んで欲しくない方向に向かう。
「いえ、一応（小声）探してますが、なかなか厳しいですね。」
「大変ですねー、」
「ええ。」
「若い人は！　お客さんみたいな中年にも仕事取られ……ゲホゲホ、ベテランとも争うんだから、若い人大変だー」
「え、えぇ。まったく今の若い子も大変ですね」

　ちょっとだけおいどんを持ち上げているような気もしないでもないけど、おいどんの心配はまったくしてくれていない。というかむしろ、遠回しに説教されてる？
　その店主は原因不明の腰痛に悩んでいるらしく、帰りがけにダンベル１０個、アブスライダー、腹筋ワンダーコアを持ってきて自慢された。ダンベル１０個は知恵の輪のように針金とビニールテープで汚く繋がっており、店主オリジナルの筋トレ方法に使うらしい。使い方を聞いてもよくわからなかったが社交辞令に絶賛しておいた。おっちゃん、その腰痛の原因、たぶん筋肉痛だよ……

　レジの脇にはどこからどう見てもPCの液晶ディスプレイとおぼしきものが単体で置いてあり、電源コードだけが壁のコンセントに空中配線でつながっていた。PC本体とかLANケーブルのようなものは、周囲１０mには見当たらない。レジとディスプレイは透明なショーケースに乗っているので、ほかにつながっていないのは丸わかりだ。
「これTVですか？」と聞いてみた。
「いや、パソコンだよ。買ったはいいけど設定できなくてね、放置してるんだ、ハハハ」
と言われた。コンセントにつないだままで放置するくらいだから、ディスプレイ内臓のUSBでもあってそれで起動するにちがいないと思うことにして、
店主の先見性と前向きな努力を褒め称えてお金を払って店を出た。

　おいどんは常連になることを決めた。