超長いのでスルー推奨。
東欧SFひいてはSF界の巨匠となったスタニスワフ・レムから東欧つながりのSF短編集の感想を。結構古いし、自分なりの未来考察のベースになっているので、ネタバレしつつメモしてしまおうと思った。忙しい時期だったせいでどちらも感想を上げていなかった。大好きという訳でもないのに、3回くらい通して読んでいる。なんだろう、妙な癖があっていいのかな?
2100年の科学ライフという本の感想もその内上げるけど、現在の富と人口の偏在、貧困問題がどれだけ明るく便利な未来に影響するのか、考えてしまう。魔法のような未来世界において根本敬の好きなおじさんおばさん達のような底辺の浮浪者や精神錯乱者たちは何をしているのだろう。ジュール・ベルヌもレオナルド・ダ・ヴィンチも、ニートや若年者の貧困、限界集落の出現を予想していなかった。
それがサイバーパンクだと言うこともできるが、サイバーパンクは安保闘争と受験戦争の産物で、一時的な流行だったと思っているので、改めて考察するとどうなるのかなぁと。
泰平ヨンの航星日記
泰平ヨンの航星日記〔改訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF レ 1-11)
- 作者: スタニスワフ・レム,John Harris,深見弾,大野典宏
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/09/05
- メディア: 文庫
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第7回の旅
超高速でベテルギウスの近くの重力渦を突き抜ける際に起こる相対的な効果により、時間軸の異なる沢山のヨンが現れお互いに足を引っ張り合う。泰平ヨンはかなりの分からず屋らしい。
自分に置き換え、自分が自分を説得する構図を考えると、やっぱりこうなりそうだ。おいどんも相当の分からず屋に違いない。
第8回の旅
惑星連合加盟を決める最高会議に地球代表としてヨンが出席し、恥をかかせられる話。地球を推奨したタルラカニア人の過失で地球に生命が誕生したらしい。夢オチ。
第11回の旅
カレリリヤ星でロボットが反乱を起こした。調査員を何度送っても戻ってこなかった。そこに潜入したヨンはロボットに成り済まして様子を伺いながら問題を解決する。ロボット人の話し方が日本人のイメージするエセ中国人な感じで面白い。こうだ。
「あいや、御同役! いったいとこへ飛ひ急かれる? よもや頓馬な隊長に棍棒罰をくらいたいというのてはこさらんたろうな? 気ても狂われたか?」
ロボットたちは人間を粘液体人と呼び侮蔑しているが、結果、カレリリヤ星のロボット全員、帰る手段を失いロボットによる処刑を恐れた人間であった。
第12回の旅
タラントガ教授の発明の時間を思うがままに伸縮できる装置の実験にアマウロピヤ星に行った話。アマウロピヤの長い歴史を体験する。
第13回の旅
ピンタとパンタの双子惑星の近くを通りかかった際、ヨンはオイルサーディン保持の容疑からピンタ星の魚察署に捕まり拘留されてしまう。乾燥の刑に処されるが、普通の留置所だった。ピンタ人は水棲人だがしょっちゅう水面に顔を出して空気を吸わなければならないらしい。パンタ人は家族や職業を1昼夜ごとに入れ替え、個人は名前を持たない。パンタ星の制度を作ったのは全生命の中でもっとも優れた人物の一人とされた嗚呼師(ああし)その人であった。
第14回の旅
エンテロピア星の観光に、クルデルとオスミオウ狩りに行く。クルデルとは山ほどの巨大な竜。10ヶ月ごとにストルム期があり、ストルム期には隕石群が落下して多数の市民や街が破壊される。しかし複写体で元どおりになる。
第18回の旅
宇宙発生学を研究するラズグワスは、宇宙が無から生じたのであれば現在の宇宙はクレジット、すなわち前借りしている状態でありいつかは消えてしまうと考えた。
ヨンは時間に逆行する電子、ポジトロンに着目した。その電子、創世量子に現在の宇宙以上に整然と秩序をもったパラメータを与えたが、研究員が功名心からパラメータを操作して今の宇宙になってしまう。
第20回の旅
未来からタイムスリップしてきたヨン自身に地球の歴史改変の計画責任者として二十七世紀にさらわれる。が、ヨンを始め委員のほとんどが失敗したせいで、火星は焼け野原になり、金星は有毒なガスで覆われ、地球の地軸は傾き、磁場が自転軸と一致しなくなり、恐竜を根絶やしにしたり等々、要は現在と同じ"出来損ないの地球"が出来上がった。怒り狂ったヨンがそれぞれの責任者を過去の地球に島送りにした結果、ダ・ヴィンチやアリストテレス、ホメロス、ナポレオンといった天才が歴史に介入して現在と同じ歴史になった。
第21回の旅
生物工学を極めた惑星ジフトニアでは、寿命も死も魂の在り処も全ての問題を克服していた。ロボットにも家具にも魂を与えることに成功し、人々は多頭多足の政治的な議論に明け暮れていた。性別も六性くらいあり、死を娯楽とし、最初に遭遇したジフトニアの破壊教団は時代遅れのロボットが隠れて信仰するほぼ唯一の宗教になっていた。
宗教においても科学の力は全能で、いつでも誰をも破壊教団に改宗できると修道院長は言った。だから、宗教のよりどころとして、敢えて何もしない。
おいどんが一番好きな話。極論が楽しい。
第22回の旅
ヨンの珍品コレクション、特にポケットナイフにまつわる話。サテルリナのスナックにポケットナイフを置き忘れたヨンは引き返して取りに戻ろうとしたが、エリペラザ太陽系の住民はずさんなところがあって、二百を超える惑星にサテルリナという名前をつけていた。
第23回の旅
完全な原子分解・再生の技術を持ったブジュト人の星で、原子図面を作って分解されてみる。ブジュト人は寝る時も気軽に原子分解している。雑に思えるが、原子分解された人の粉をこぼしても石炭、砂糖、砂、針、硫黄を入れてやれば再生できるらしい。
第24回の旅
インジオト人は聖族と徳族、隷族に別れていた。労働する完全な自律機械ができ隷族は仕事がなくなって次々に餓死した。問題解決のために、完全で公正無私な裁定をくだす機械を作らせたところ、その機械はインジオト人を円盤にしていった。
第25回の旅
人を襲う宇宙ジャガイモの話。タラントガ教授との最初の交流の話。灼熱の惑星で外の知的生命体について語る生物の話。八百六十度でヌルいと言うこの生物は、冷たい惑星に知的生命体は育たないという会話をしている。
第28回の旅
泰平一族の家系について。
時間はだれも待ってくれない
- 作者: 高野史緒
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/09/29
- メディア: 単行本
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東欧文学に関しては、「SF」よりも「ファンタスチカ」という語のほうがしっくり来る。ファンタスチカ、すなわち、サイエンス・フィクションやファンタジー、歴史改変小説、幻想文学、ホラー等を包括したジャンル設定だ。そこはレムやエリアーデ、チャペック、ブルーノ・シュルツ、パヴィチたちの住処と言うこともできるだろう。ここの挙げた作家を全員知らなくとも、二人ほどーー例えばレムとカフカーーだけでも知っていれば、ファンタスチカの意味や雰囲気は何となく掴めるのではないだろうか。
ーー高野史緒(序文より)
だそうであるが、おいどんはこの本で初めてファンタスチカという広すぎてもはやジャンルの体を成していない言葉を聞いたので、へーそうなんですか、としか言いようがない。たぶんおいどん以外の読書通なら常識なのだろう。マジック・リアリズムと何が違うのかわからん。
前半はSF中心だが、中盤で革命や戦争の生活、後半でファンタジーに。
女性成功者 ロクサーナ・ブルンチェアヌ(ルーマニア)
アンドロイドとの結婚が当たり前になった世界でアンドロイドと人間に惚れて幻滅する女性のお話。
もうひとつの街 ミハル・アイヴァス(チェコ)
長編の中から8章と9章を抜き出してきたらしい。ある街の「もうひとつの世界」を探して魚類と戦ったりする。この本の中では少しばかりの奇妙な雰囲気しか感じ取れない。
時間はだれも待ってくれない ミハウ・ストゥドニャレク(ポーランド)
建物の幽霊。
労働者階級の手にあるインターネット アンゲラ&カールハインツ・シュタインミュラー(東ドイツ)
オーストリアのインターネットが障害で混乱した折、アダムチクは東西ドイツが統一されなかったパラレルワールドの自分を名乗る人物のメールを受け取り、同僚でコンピューター・スペシャリストのマルコと共に事態の真偽を調べていく内に徐々に真実味を帯びてきたことで、東ドイツ時代のトラウマに苛立つ。
マルコの愛想のない調査結果がリアルだなぁ。
盛雲、庭園に隠れる者 ダルヴァシ・ラースロー(ハンガリー)
清朝のある君主の庭園でかくれんぼ。
東洋史専攻って稀有なんだろうなぁと思いきや、ハンガリー文学では中国ものはそれなりにあるらしい。同じアジア人として東洋に憧れる気持ちがあるのだろうか。
アスコルディーネの愛ーダウガワ河幻想 ヤーニス・エインフェルズ (ラトヴィア)
川の人魚姫。河童じゃないよ人間だよ。ところどころでアヘンを吸っている描写があり、人物相関も時間の前後も最初から最後まであやふやで船とアスコルディーネくらいしかわからなかった。何回読んでも理解不能。